写真・映像制作者 水谷充の私的視線

〜「見てきたもの」記録装置 カメラがくれた宝物 〜
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火の恩恵


 かつて団地の建物には、焼却炉が設置されていた。ゴミは各自がそこへ投げ込んで焼却する。現在のように回収車が巡回してゴミ収集をするようなシステムではなかった。当然ダイオキシンなんてものも発見されていなかったのだろう。

 鍵っ子は、誰もいない家には帰りたがらない。たとえ真冬であっても、人のいない家より、様々な気配のある外を好んだ。少なくとも僕はそんな小学生だった。
日が落ち、急激に下がる気温。僕は吸い寄せられるように、焼却炉脇に身を寄せた。
かすかに燻る炎。石造りのそれは、しっかりと熱を蓄えていて、傍らに5分も居れば、じっとりと汗ばんでくるほどの恵みを僕にくれた。
掻き出し口からは、原型がそのまんま残った菓子袋が、燻し銀のような色の灰になって溢れ出している。シーンと静まりかえった夕闇の中、耳を凝らすとチンチンというのかプチプチというのか、たしかにその中に火種が残っているんだと音が教えてくれている。
まだ冷めぬ鉄製の投入口から焼却炉の中を覗くと、なぜかワクワクする光景が熱気と共に目に飛び込んでくる。真っ黒な中に所々がオレンジ色の光を放っていて、まるでSF小説の口絵にある「宇宙の誕生」のようだった。僕は飽きもせずそれを眺めて過ごした。

 誰に教わることもなく、火の側にいれば快適だとわかっていたし、火傷ギリギリの距離感も持っていた。サルビアの蜜を吸うことも、桑の実が美味しいということもなぜか知っていた。
知恵じゃない。おそらく本能がくれた力。そんなものが、ちゃんと生きていくことをサポートしてくれる。
心地良さは味方。安らぐなら治療になり、ワクワクするなら前進する。
子供の頃、無自覚にしていた行動がそれを教えてくれた。利害とは違う、生きるための損得は、知恵や知識をしまいこんで、感じるままに行く方が正解かもしれない。
子供の頃を振り返ることで、今感じている不安が和らいだりする。スパッとシンプルに自分を信じてあげるには、よけいな知恵や知識が身に付きすぎたということなのだろうか。
| Memorys | 05:38 | comments(2) | trackbacks(0) |
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| - | 05:38 | - | - |
小説の一場面のようでした

さいきんは「火」も「土」も「氷」や自然の「水」も、
身近に触れる事があまりないような気がします
あまり激烈なのは困るけど もう少し
「熱い」や「冷たい」や「明るい」「暗い」などなど…を
直接に感じたい…気もする。
五感が退屈してるから、やたらに食べたり飲んだり、
刺激を求めたりしてしまうのかしらん。

| ミワコ | 2007/01/24 12:19 AM |

ご無沙汰してます。今年も宜しく〜

ホント、おっしゃる通りです。
今年は暖冬だから、まぁ仕方がないけれど
霜柱をバキバキと踏みながら歩くのが特に好きな自然との触れあいだった。
今やほとんどがアスファルトに覆われていて、地球がどんな素材で出来ていたのかを感じることが不可能に近い。
都会暮らしは、ヤバいね。
風は異臭、水も塩素臭。意図して旅行などに出かけないと体調が維持できないね〜困ったもんです。
| Mizutani | 2007/01/24 3:13 AM |










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