写真・映像制作者 水谷充の私的視線

〜「見てきたもの」記録装置 カメラがくれた宝物 〜
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事実と真実


 カメラは、レンズの前にある客観的事実を写し取ります。その極めて高い記録再現性は、司法の場において証拠として扱えるほどのものです。ただ、そこに写っている「事実」が、必ずしも「真実」であるとは限らない。そんな危うい側面も持っています。
このことはしっかりと認識しておく必要があります。
例えば、「泣きじゃくる子供の脇に、大人の女性がその子供の方を向いて立っている」そんな写真があったとします。子供をなだめる母親でしょうか? いや、虐待かもしれません。迷子を保護する通りすがりの人かもしれない。
つまり、客観的状況を写し取ることは出来たとしても、可能性のある真実は多数存在するわけです。その写真を見た人の経験値や感性、またその時の心的コンディションなどによって受け止め方が変わってくるのです。
その写真を意図的にコントラストの強い、暗めのプリントとしたらどうでしょうか。見る人の不安感を煽り、不幸な状況を喚起させるかもしれません。反対に、非常に柔らかいハーフトーンの豊富な仕上げを施したらどうでしょうか。母子の信頼関係を連想させるかもしれません。

 非常にリアリティのあるメディアでありながら、撮影者の意図を反映させることができる。ここが写真の面白さであり危うさなのかもしれません。
料理の写真などで美味しさをより明快に伝えるため、表面に油を塗ったり霧吹きで水滴を付けるなど、新鮮さを強調する為の工夫は多くの場合普通になされる演出です。
撮影者の意図が、善・悪のどちらをバックグラウンドとしているのか。撮る側に問われるモラル、見る側に求められる力量。
絵画の一ジャンルとして発明され、発展してきた写真というリアリティのある表現方法は、そういった特性を備え持つがゆえに視覚伝達の手段として広告や出版の分野でも欠かせないもの。また出来事を記録し伝えるためのドキュメンタリーや鑑賞作品としての価値を追求するファインアートなど、様々な方面でも欠かせない表現方法なのです。

 さて、ここにアップした制服の似合う女の子は、、、高校生ではありません。(笑)
| A View of Photography | 14:00 | comments(0) | trackbacks(0) |
カメラを持つ日常


 小学校3年の時、父からもらった古いカメラが遊び道具になった。細かい経緯については忘れてしまったが、おそらく僕がねだったんだろう。
実家で見つけた古いアルバムに整理されている大量の写真には、もちろんほとんどの場面で僕が写っている。つまり小さい頃から、写される人としてカメラを構える父の姿をずっと目にしていたわけだ。当然子供にとって手本となる年長者が父だとすれば、その手の中にあるカメラを欲しがるのは必然的な行動だったに違いない。
手に入れた大人の道具は、僕を夢中にさせた。何かを写したいという欲求は、おそらくまだない。しかしその道具を操る父の姿を真似ることが、どこか誇らしかったように記憶している。
 幼少期を過ごした東京の北区十条という所は、戦前からの面影を強く残した街並みで、板塀に囲まれた路地が迷路のように入り組んでいる。公園や広場は少なく、主な遊び場はその路地ということになる。冒険と称して、行ったことがない路地の先を少しずつ制覇してゆくわけだ。もちろんカメラを携え、何か面白いものはないかと探しながらの冒険だ。
やみくもに切っていたシャッターも、やがて対象を吟味するようになる。袋小路の広場にある井戸の手漕ぎポンプや沢山の実を付けたザクロの木。映画館の看板や踏切を通過する赤羽線(現、JR埼京線)。今まで漠然と見過ごしていたものが、なんだか新鮮に見えた。
カメラを持つ日常は、この頃から始まり今日に至っている。
| Memorys | 04:00 | comments(4) | trackbacks(0) |
写真の持つ記録性
20060216


 写真の仕事を始めて20年。その節目にと立ち上げたweb site。その制作にあたって、掘り起こしてきた過去の仕事を整理していてつくづく感じたことがある。撮影を通して出会った人や行った場所、それらの様々な「見てきたもの」が仕事であれ、プライベートであれ、しっかりと記録され形として残っているということだ。それらのカメラが捉えてきたものは、まぎれもなく自分自身の目で見てきたもの。気が付けばカメラってやつが、自分史という宝物を残していてくれたんだ。 

 母が入院して一年なる。人の住まなくなった家は荒れると言うが、まさに無人と化した実家はそんな状態になりつつある。何かの終焉は気を滅入らせるに十分なパワーを持っていて、片付けはまったくといっていいほど進んでいない。
10年ほど前、父が他界して以来ずっと母は一人暮らしをしてきた。「お前とは生活の時間帯が違いすぎるから、一人は気楽でいい。」そんな風に言っていた母も、持病の悪化と共に、頻繁に電話をかけてくるようになった。
「ちゃんとやってるの?」 その弱々しい声は鬱陶しく、思えば邪険に扱ってきたものだと…。
無人の実家には、そうしてきた自分の姿に直面させられるプレッシャーが、埃と共に層になって折り重なっていて、益々気が滅入る。
 ある日そんな中から一冊の古いアルバムが出てきた。1ページ目は、昭和34年12月 父に抱かれた生後一ヶ月の僕自身が写っている。ページをめくるごとに成長するその中の僕を見ていると、大事に育てられてきたんだと再認識させられる。間違いなく僕の今があるのは、両親の御蔭。生み・育て、そして世間に送り出す。そのプロセスの一端が、忠実に記録されている。今更ながら、写真の持つ記録性の凄さを見せ付けられたような気がした。

 カメラと出会い、仕事として常に生活の中にある写真。今も延々と思い出が記録され続けている。老いに対する恐怖感が薄らぐ最高の武器が手の中にあると実感している。
| Memorys | 11:54 | comments(0) | trackbacks(0) |
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