写真・映像制作者 水谷充の私的視線

〜「見てきたもの」記録装置 カメラがくれた宝物 〜
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好奇心の発露


 ヨチヨチ歩きが、周囲の仲間と一緒に成長してゆく感覚は、喜びも悲しみもイーブン。まさに「一緒に」なわけだから、無理がない。
ところが中途での転校は、「今まで」という過去をなしに、ある時点から唐突に時間や場を知らない人と共有することになる。
それは、ワクワクする感覚以上に、戸惑いのようなものが沢山あって、思わぬ変化を自身にもたらしたりする。

 もともと左利きだった僕は、前の学校できつい矯正を受けてきた。ここ最近の傾向とは違っていて、左利きはみっともないという考え方が常識の時代だった。
かなり厳しく躾けられてきたにも関わらず、右が使えるような気配すらない。僕はそのまんま見知らぬ新しい土地で生活を始めなくてはいけない。
初日、教室の前で自己紹介を終え、担任の先生に促され空いた席に座る。ついに新しい学校での授業が始まった。すると僕は、当たり前のように右手で字を書き始めたんだ。もう驚きを通り越して、不思議な気分だった。
今思うと、厳しい躾けによって「左利き=みっともない」ということだけは、意識にしっかりと刻まれていたんじゃないだろうか。
転校は言ってみれば、過去は問わずのゼロ・スタートってことになる。つまり僕の中から、「みっともない過去を捨ててやり直そう」という自己防衛本能が発動されたんじゃないかと分析している。
ともかく、子供の環境適応能力は凄まじい。新しく出合った友達から、様々なものをまるで乾いたスポンジの如く吸収し、みるみるその異郷の地が自分の居場所になってゆくのだ。軽い興奮状態はしばらく続き、僕はその感覚を楽しんだ。

 小さい頃から怪我一つしない、どちらかというと臆病で慎重な子供だった僕は、知らないことを知りたいという欲求にストレートな人格へと大きく軌道を変えていった。
「写真を撮る」または「写真を撮りたい」という欲求の出所は、まさに知らないことへの好奇心と、知った喜びを留めておきたいという感覚。
今に続く生き方に転校が及ぼした影響は、かなり大きなものだったと考えられる。
| Memorys | 03:50 | comments(3) | trackbacks(0) |
写真のある生活


 web site巡りをしていると、本当に多くの方々が写真を身近なものとして過ごしているのだと実感する。ひたすらストイックに自らの美意識を提示している人や、気負わず淡々と日常を切り取っている人。様々なアプローチは見ていてとても楽しく、ついつい時間を忘れて没頭してしまう。
写真というメディアは、なぜこんなにも人を惹きつけるのか?
僕自身のことを言えば、軌跡の保存という行為が与えてくれる安心感のようなものが、撮り続ける動機の根底にあるんじゃないかと思う。その保存性は、時間の概念すら一枚の写真に閉じ込めてしまうのだから、なんとも凄まじい。
ふと何かの拍子に、かつて撮った一枚の古い写真が目に飛び込んでくる。すると、その撮ったときの感触がアッと言う間に蘇ってきて驚かされることがある。その場の匂いや温度、肌に当たる風や聞こえていた音。まったく記憶の外側にすっ飛んでなくなっていた様々ものが、胸の奥の奥から湧き出てくるような感じだ。
いろいろなことを体験しながら「生きる」という道を歩き続けていると、その一瞬一瞬をやがて忘れてしまうのだという恐怖感に襲われることがある。写真はその恐怖感を見事に押さえ込んで記憶の曖昧さをフォローしてくれるわけだ。
鑑賞する楽しさもあるだろうが、ぜひ撮ってみてほしい。肩の力を抜いて、気になったものをメモする感覚でかまわない。インデックス・シートに日付を打って、適当に仕舞い込んでおけばいい。数年を経て、それを見たときに得られる面白さは格別だよ。そこに込められた数時間の軌跡を一瞬にして追体験できる楽しさは、他に変えがたいものだ。

 職業写真屋として、人に見てもらうための写真を生業とする僕が言うの可笑しいかもしれないが、写真ってつくづく自分自身のために撮っているんじゃないかと感じている。
| A View of Photography | 10:08 | comments(0) | trackbacks(0) |
好奇心の扉


 小学校3年を終えた春、僕ら家族は東京の町田市へ転居することになった。仲良く遊んだ友達と別れなければならない理不尽さは当時の僕には理解できず、ずいぶんと苦しい思いをしたように記憶している。
移り住んだ町田市というところは、いわゆる新興住宅地として急激な変貌を遂げつつある街で、慣れ親しんだ十条とは様々な点で正反対の土地柄と言える。
1970年当時は、田畑も数多く残っており、低いところを蛇行する河川も護岸整備が進んでいない。川の周辺には湿地帯が広がっていて、様々な水棲生物や植物、昆虫が見られ、遊び場に困ることはない。横浜市緑区と隣接する丘陵地帯には新築の家が点在し、山の切通しを抜けると巨大な団地群が異空間を作り出している。古きと新しきが混在した不思議な風景は、小学校4年の僕をワクワクさせた。

 東京で生まれ育ってきた僕には、意を決して上京してくる地方出身者の感覚はわからない。しかし、この時期の転校はそれに近い感覚だったのかもしれない。新たに出会ったクラスメートも前の土地とは明らかに異なった文化を持っていて毎日が発見の日々。路地が遊び場だった僕に、いきなり広がったフィールドは、想像を絶する刺激的体験をくれた。
広い土の校庭。少年野球に没頭する日々が始まり、カメラを持って遊びに出る機会も減っていった。
 辛かった友達との別れは、楽しい出会いで帳消しになり、好奇心を刺激する様々な出来事が時間の流れを加速させた。この転校という経験は、好奇心の扉を開き、今に続く生き方の基礎を作ったんじゃないだろうか。 退屈なら目線を変える。ワクワク出来なければ環境を変える。停滞は鬱血を生み、心身ともに不調の原因となる。
僕は好奇心いっぱいでキョロキョロしながら今を生きている。
| Memorys | 09:05 | comments(0) | trackbacks(0) |
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