写真・映像制作者 水谷充の私的視線

〜「見てきたもの」記録装置 カメラがくれた宝物 〜
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Turning Point


 0歳から100歳の顔が並んだ白十字社の新聞広告は、僕が33歳の時の仕事。
白十字という企業は、ご存じの通り脱脂綿や包帯、綿棒といった医療関係の製品から老人用の紙おむつなどを製造販売している。
「生きるすべての人に使われる製品を」そんな企業イメージを伝える意図で約3ヶ月を費やして撮影した人々。実年齢に嘘偽りのない101人だ。
友人のところに誕生した赤ちゃんから、可能な限り知人の顔で枠を埋めて行こうとアポ取りを経て撮影が始まった。
子供の誕生に幸せそうな両親、ヨチヨチ歩きに一喜一憂する母、反抗期なのよ〜と楽しそうに愚痴をこぼす友人。
そんなワクワクする再会が撮影のテンポを加速させる。

ところが撮影が進むにつれ、腰は重く、足取りは鈍く、次第に撮影に行くことさえ苦痛になってきたのだ。

男女の区別も曖昧な0歳児から、次第に明らかになってくる性差や個性。
意気揚々と未来を見つめる10代から20代。
それなりの成果を謙遜し、それでいて周囲との差を意識する30代。
ある程度人生に納得し、自分を褒め称えることで未来への原動力を求める40代。
思い出を中心に語る50代。
言葉数が少なくなり、笑顔で僕に気遣いをしてくれる60代。
男性が減り始める70代。
顔だけを見ていると再び性差が曖昧になり始める80代。
施設頼りの90代。
友人の歯科医師に紹介してもらった娘と二人暮らしの100歳になるお婆ちゃん。

33歳をセルフ・ポートレートとした仕上がりを目にしたとき、僕はある種の衝撃を覚えた。
「オイオイ、残りの人生って…、アクティブな正月って、あと数えるほどしかないじゃんか〜!!」
考えてみると、わずか3ヶ月程度の間に人の一生を疑似体験してしまったわけだ。他人さまを撮影するという形ではあるけれど、紛れもなくこの仕事は人生の縮図を体験する作業だった。

ベビーベットに眠る0歳児を俯瞰で撮り始め、施設入居者を俯瞰で撮り終えた。

僕は、この仕事をきっかけに、それまで築いてきたほとんどの物を捨て、人生のリセットボタンを押してしまった。
僕がやりたかったことは、好きな写真ってもんを撮りながら人と関わってゆくことであって、決して会社経営者をやりたかったわけじゃない。
バブル経済の波に乗って、そこそこ収めていた成功。それと引き替えに失った情熱や希望。会社運営の資金繰りに奪われる知恵と時間。乗る時間がなく走行距離の伸びないバイクや車。
今現在の立ち位置に我慢できなかった僕は、5名に増えていたStaffに解散を告げ、離婚まで決めてしまった。いい大人のすることじゃないと頭で理解はできていたけれど、そこに止まることは出来なかった。

 唐突に今があるわけじゃなく、日々の積み重ねでここに至っている。
少しずつ進み、フッと気が付いたら「ずいぶん遠くへ来たものだ」という、ちょっとだけ後悔とかが入り交じった妙な感情で身動きが取れない気分に苦しんだりする。
その気分は何かの拍子にやって来たわけだが…、けっして嫌な気分だけということではない。むしろそれは、首筋が泡立つような高揚感を伴ってやって来た。
それなりに長く生きて来れたからこそ感じることのできる、いわば大人にしか味わうことの出来ないご褒美のような切なさは、「今後」へ目を向けた場合、方向修正のチャンスとも受け取れる。
34歳から始まった、ふりだしからのやり直し。
社会人としての成熟した姿とは、お世辞にも言えない愚行を、僕はこの仕事によって決断してしまった。
47歳を迎えた現在も、その子供じみた生き方を続けている。
僕は、ことある事に「人生、死ぬまでの暇つぶし」と口にする。それはこの愚行に対する言い訳ということかもしれない。
| One`s View of Life | 02:06 | comments(6) | trackbacks(0) |
子の心


 「行ってきま〜す!」 
家を飛び出すと、一目散に走る毎日だった。朝はギリギリまで寝ていられる。なんせ今度の小学校は団地一棟を間に挟んだ目と鼻の先ある。
集団登校という習慣はなく、このタイミングで家を出ればセーフという感覚は、自分の器量で身につけなければならない。転校生にとっては、すべてが白紙からのスタートということだ。

 「どこから来たの?」「どこに住んでるの?」
集団の中の新参者は、当然のことながら好奇の目にさらされることになる。
注目されることの快感を覚えながら、日々自己紹介が上達する。

 「一緒に帰ろ〜♪」
時には、僕の家と正反対に住む奴と学校帰りを共にしたこともあった。
僕から見たら好奇心の対象が沢山あると言うことだ。
 
 「え〜と、、、」 「イ・ガ・ラ・シ。」
みんなは、僕の名前だけ覚えればいい。僕は何十人も覚えなければいけない。
小学校2年生の頃、京浜東北線の全駅を暗唱できていた僕は、数日でクラス全員を把握できていた。

 「土器拾いに行こう!」
校庭脇の畑に一歩足を踏み入れれば、土器のかけらがいくらでも採れた。足が埋もれるほどの軟らかな土は、下町的都心の住宅密集地にはなかったものだ。
運動靴は、すぐボロになる。母親は、仕事が増えたとぼやきながら靴を洗ってくれていた。

 「○○さんの事が好きかもしれない…」
男子が2〜3人集まれば、女の子の話ばかり。誰が好きかというテーマのおしゃべりは、やがて日常会話の大半を占めていった。
【人気のある女の子】という概念を学ぶと同時に、人の趣向は様々なんだということも、この頃に学んだことだ。
好きな女の子を見ているだけでも、けっこう幸せな気分になった。どうしたら仲良くなれるのか、宿題そっちのけで考えていた。

 子供は、子供時代、子供であるという自覚なしに日々を過ごしている。
自分自身が持っている価値観を基準に、すべてを判断する。僕は読書が嫌いだったこともあって、経験者から学ぶという部分が著しく欠けていて、その傾向は一段と強いものだった。
「子供なんだから…」という大人目線の物言いには、異常なまでの敵対心で答えた。
根拠なしに、自分と大人を同列に考えていた僕は、「そんなことしても後悔するぞ」的なアドバイスは一切耳に入らず、およそ素直に言うことを聞いた試しがない。むしろ、よりいっそう反対の行動に突っ走った。
そんなだから、痛い思いをしても泣き言をグッと飲み込んで、気分の回復をじっと待つ癖が付いてしまった。

 父は亡くなる少し前、お見舞いに行くと必ず僕を叱った。
「忙しいんだから、自分のやるべきことをやれ。いちいち顔出さんでいい!」
きっと父の子供時代と、僕の子供時代はそっくりだったに違いない。
| Memorys | 05:53 | comments(6) | trackbacks(0) |
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