写真・映像制作者 水谷充の私的視線

〜「見てきたもの」記録装置 カメラがくれた宝物 〜
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モノリス


 放課後、友達の一人が真新しい自転車に乗って野球の練習にやってきた。変速ギアと方向指示器の付いたそれは、今まで見たこともない輝きを放っている。僕も自転車が欲しくてたまらない。それが手に入らないと何もかもが楽しくない。親の説得にエネルギーを注ぎ、数日後には自転車を手に入れていた。

 1970年代前半の町田市は、まだまだ自然の要素を色濃く残している。切り崩されていない丘陵地帯や雑木林も多く、サバイバル的要素満載の面白い遊び場がそこここに点在している。
自転車によって広がった行動範囲が、ますます日々を面白くしていった。
徒歩じゃ行けそうにない場所、そして短縮された移動時間。流れる景色や顔を直撃する向かい風は、歩くこととは全く違う驚きを与えてくれた。

 人間の進化は道具の歴史だと、何かで読んだ覚えがある。
自転車は非常にわかりやすい形で生活を変化させた。些細だけれど、意味のある変化。ハンドルの位置やサドルの高さを合わせ、ブレーキの具合を調整する。良くできたメカニズムは身体に馴染みさらにその能力が向上する。丁寧に関わり工夫を重ねることで、その変化はさらに質を高めていく。道具が能力を補い、可能性が無限に広がっていく感覚が楽しかった。
出会いにワクワクする僕の性質は、間違いなく自転車が原点にある。

 出会うことそのものが人生と言ってもよい。
「どこで、なにを、誰と」それ以外に人生を計る物差しを僕は知らない。
 道具、価値観。そして何より人間との出会い。
たとえ悪キャラであっても、自分を知る手がかり。無駄なことは何一つない。
取捨選択のセンスが明暗を分け、エッセンスの抽出吸収力が成長の鍵になる。

 バリバリの向上心がこれまでの自分を支えてきた。
でも、ちゃんと気付いているよ。やがて必ず来る別れってもんの切なさは、いっくら誤魔化しても心の奥にべっとりとまとわりついて離れない。成果に傾倒する心のあり方は、気を紛らわせるのに丁度いい。あるがままを自然体で受け入れるなんて芸当は、まだ出来そうもない。まだまだ進化することに夢中で日々を送っている。ゆっくりと時間の流れを楽しむなんて、ちょっと憧れちゃうけれど…。
| One`s View of Life | 06:02 | comments(0) | trackbacks(0) |
火の恩恵


 かつて団地の建物には、焼却炉が設置されていた。ゴミは各自がそこへ投げ込んで焼却する。現在のように回収車が巡回してゴミ収集をするようなシステムではなかった。当然ダイオキシンなんてものも発見されていなかったのだろう。

 鍵っ子は、誰もいない家には帰りたがらない。たとえ真冬であっても、人のいない家より、様々な気配のある外を好んだ。少なくとも僕はそんな小学生だった。
日が落ち、急激に下がる気温。僕は吸い寄せられるように、焼却炉脇に身を寄せた。
かすかに燻る炎。石造りのそれは、しっかりと熱を蓄えていて、傍らに5分も居れば、じっとりと汗ばんでくるほどの恵みを僕にくれた。
掻き出し口からは、原型がそのまんま残った菓子袋が、燻し銀のような色の灰になって溢れ出している。シーンと静まりかえった夕闇の中、耳を凝らすとチンチンというのかプチプチというのか、たしかにその中に火種が残っているんだと音が教えてくれている。
まだ冷めぬ鉄製の投入口から焼却炉の中を覗くと、なぜかワクワクする光景が熱気と共に目に飛び込んでくる。真っ黒な中に所々がオレンジ色の光を放っていて、まるでSF小説の口絵にある「宇宙の誕生」のようだった。僕は飽きもせずそれを眺めて過ごした。

 誰に教わることもなく、火の側にいれば快適だとわかっていたし、火傷ギリギリの距離感も持っていた。サルビアの蜜を吸うことも、桑の実が美味しいということもなぜか知っていた。
知恵じゃない。おそらく本能がくれた力。そんなものが、ちゃんと生きていくことをサポートしてくれる。
心地良さは味方。安らぐなら治療になり、ワクワクするなら前進する。
子供の頃、無自覚にしていた行動がそれを教えてくれた。利害とは違う、生きるための損得は、知恵や知識をしまいこんで、感じるままに行く方が正解かもしれない。
子供の頃を振り返ることで、今感じている不安が和らいだりする。スパッとシンプルに自分を信じてあげるには、よけいな知恵や知識が身に付きすぎたということなのだろうか。
| Memorys | 05:38 | comments(2) | trackbacks(0) |
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